HARP + Nipkow disk confocal

この記事にほとんど全て書いてあるのだが、自分の言葉で書き残しておくことにする。

Live imaging of yeast Golgi cisternal maturation.

時間分解能を高める、ということは画像の取得にかける時間を短くすることである。ガリバノミラーを用いたポイントスキャニングタイプの共焦点レーザー顕微鏡では、画像取得を点で行う為、どうしても1秒のオーダーを切ることが難しい。そこで、高速化の為のアイディアとして、線でスキャニングしたり、あるいは限りなく面に近づけるための工夫がなされてきている。

ラインスキャニングを実装している共焦点レーザー顕微鏡の例はZeiss 製 LSM 5 Liveがあり、30ms くらいの取り込みはできたように記憶している。かなり、共焦点性(confocality) を犠牲にすることになるが、ポイントスキャニングと比較して高速化ができている。

一方、共焦点性と面でのスキャンという一見実現不可能に思えるふたつの課題を解決する工夫として Nipkow disk というデバイスが考案され、実装されている。この装置では、ディスク上に無数の細かい穴をあけておき、この穴を通してレーザーを照射することによって、この穴をピンホールとして用いて同時に複数の点でのスキャンを行う。ディスクを高速回転させることで、面全体をカバーするスキャンが完成する。

機械的には、時間分解能を高めることは十分に実現可能なところまで来ていた。しかし、問題は試料から得られるシグナルにあった。通常共焦点観察で用いる蛍光分子は、約4000個の光子を放出すると photobleach してしまう。また、単位時間当たりにある蛍光分子が蛍光発色する確率は一定である。そのため、高密度で蛍光分子が存在するような試料を観察しようとしても、画像取得にかける時間を短縮することによって、得られるシグナルは取得時間に比例して減少していく。

そのため、高感度でシグナルを拾えるようなスキャニングでバイスが必要になっていた。光受容素子は、光子を電気的なシグナルに変換するものであり、CCD や PMT が一般的に用いられている。 CCD では、大まかに二つの種類があり、電子注入型と電子阻止型に分かれる。これは、光子-電子変換部位に電子の流入をするかしないかという違いである。性能として、注入型はシグナル増幅が可能であるが、増幅に伴うノイズの発生が避けられず、一方阻止型では、シグナル増幅はできないが、ノイズがないクリアなシグナルが得られるという違いがあった。

ハイビジョン撮影の為に新しいカメラの開発の必要に迫られていた NHK では、ノイズが加わることなく、シグナル増幅が可能なカメラを模索していた。あるとき、阻止型に通常はかけないような高電圧をかけるという実験をやった際、まさにこの望まれていた、ノイズ付加を伴わないシグナル増幅が可能な素子を発見した。これが HARP (HARP: High-gain Avalanche Rushing amorphous Photoconductor) である。

HARP と Nipkow disk の併用にデコンボリューションの技術を加えて、上述の論文ではこれまでは答えようがなかった問題に光を当て、観察することに成功した。