Thomas Lecuit - IBDM - Cellular Dynamics

Stephen Cohen のラボの出身でNusslein-Volhardとノーベル賞を受賞したEric WieschausのラボでポスドクしてPIという方の講演も聞く。昨日はセミナが4つも。
Drosophila の cellularisation という過程をモデルとして細胞極性の生成機構などをテーマにしている。主にCell intercalationの話しだったが、cell biology の次世代をなんとなく感じる講演だった。ものすごく頭がいい。
Apico-basal polarity の決定はまだ決着がついていない重大な問題であり、それに手をかけようとしている。初期の embryo で microarray 解析 *1 し、候補遺伝子を RNAi knock down して live imaging して cellularisation defect を生じるような遺伝子のスクリーンからBtszを釣っている。RNAi での表現型は上皮性の消失および、E-cadherin の細胞膜への集積が保てなくなるというものが live imaging で示された。Btsz は Slp (Synaptotagmin-like protein) で、Par-3 と PIP2 によって apical 側へ recruit され、moesin と相互作用して E-cadherin を AJ へと呼び込んでいるという仮説を提出している。
Pre-blastodermal embryo を用いているため、maternal contribution が非常に大きな問題となっており、RNAi が使われている。しかし、Lecuit さん自身も話されていたが、翻訳されてしまったものに対しては RNAi は関与できる訳もないため、タンパク質の安定性が低いものに対してしか利用できない。また、dominant negative は例によって gain of function の表現型を見ているのか loss of function を見ているのかが、明確でないため議論として成立しにくいということも話されていた。"I hate dominant negatives" ということばが印象的だった。
ただ、Cell intercalation のときに細胞が A-P 方向の接着を弱め、D-V 方向の接着の面積を増やすことで germ band elongation を起こしているという例の Nature の論文で A-P 方向の細胞膜でのみ non-muscle myosin II が局在していることが示されている。このときに、myosin II の binding partner として、cdGAP (cdc43, Rac, RhoA の GAP) が Y2H で取られており、この cdGAP の GAP domain を欠いた変異タンパク質はとても綺麗な dominant negative として作用することを示していた。
細胞は接着面積を最大にした状態で安定化し、それが平衡状態となっているという仮説がベースとなっているアイディアで、cell intercalation を起こすにはその平衡を打ち破るような機構が必要になる。その可能性はふたつある、と Lecuit は言う。
ひとつは myosin II によって recruit された cdGAP によって cdc42, Rac, RhoA のどれかの活性が下がることで actin fibre が脱重合し、 E-cadherin を裏打ちしている cortical actin network が失われる。そのことで A-P 方向での細胞接着が弱まり、D-V が拡大することになるというもの。もうひとつは、A-P/D-V それぞれの細胞膜において張力がかかっているという仮定に基づく。このとき、myosin II と cdGAP によって F-actin が減少することによって A-P 方向での細胞膜における張力が減少し、D-V が拡大するというもの。これらをどちらも互いに背反な命題ではない。Optical tweezer による力学的測定および、infra-red laser *2による局所的細胞膜破壊を利用して、仮説を証明したいと話していた。
ちょっと戻るが、maternal contribution の除去および、特定の時期でのみ遺伝子の機能を阻害したいという目的のために temperature sensitive allele が非常に有用なツールとなる。過剰発現を行える EP line を利用した EMS による TS 単離という手段の他に、yeast orthologue を利用して yeast の TS を Drosophila に戻してやる、なんて話もお昼をご一緒させていただいたときに出ていた。
34 歳。Thomas Lecuit's web

*1: ちょっとどういうトリックをつかってサンプルを調整したのかを聞き逃した

*2:UV laser よりも限局した領域に対して破壊が行えるとのこと, フェムト秒のパルスレーザーを用いている