細胞工学による器官再生の最先端

東京女子医大の岡野先生のラボの研究。もっとも初期の培養系に由来する細胞の移植に向けた調整は細胞外マトリクス(以下 ECM)を用いた足場を細胞を含む培地中で培養し、ECM が細胞によって置換されていくのを利用し、これを移植するということによってなされていた。ヌードマウスの背中にヒトの耳様の構造物をつくりだした、あの Human Body Shop という表題を生み出すことになる研究はこのようにして始まっている。
しかし、この手法では ECM ベースに組織再構築を行うため、fibrosis *1気味の組織が生じてしまうため、心臓や肝臓、腎臓のような組織の再構築には、アプローチとしての欠陥がある、と岡野教授は考えたらしい。その問題を克服するための第一歩として、細胞のシートの構築とシートとしての性質をそこなうことなく、マニュピレーションを可能とする技術基盤の整備があった。通常、シートを構成する細胞は ECM コートしたシャーレの中でお互い adherens junction などを形成しながら接着し、他方シャーレとは integrin を介した focal adhesion によって接着することになる。このため、細胞を操作するためにはシャーレとの接着を物理的にはぎ取るか、あるいは protease 処理によって接着分子を破壊するということが行われている。しかし、これでは細胞シートではなくなってしまう。
そのためにどうすればいいか。シャーレとの接着を制御できればいいわけである*2。Poly-N-isopropylacrylamide は 32 度近傍で急激に可溶性で細胞と接着が弱い形状から、不溶性で細胞接着性が高い形状へと可塑的に変化できる物質である。
この Poly-N-isopropylacrylamide を利用して角膜の一部を摘出し、シートを培養して治療することがすでに治験されているらしい。また、口腔粘膜由来で自己の細胞由来でも同様のことができるようになってきている。つまり、免疫系による拒絶反応を完全に克服する移植システムに手をかけているわけ。

*1:繊維症

*2:このあたりの発想が理学との違いをもっとも感じるあたり