Drug delivery system

略して DDS 標的細胞に特異的に分子を送り届けてそこで作用させるという都合のいい話をなんとかしようという話。片岡先生が話されていた。ガン細胞に選択的に届けるにはどうしたらいいか。まずガン細胞の周辺状況は毛細血管の基底膜の発達および血管内皮同士の接着が緩んでいる傾向にあるため、100nm くらいの物質ならば血管からすり抜けることができる。だから水溶性ならばとどけることができる。さらに、ガン細胞は正常な細胞と比較して増殖が亢進しているため、物質の取り込みも亢進しているので都合がいい。
不溶性の抗ガン剤などをポリエチレングリコール (PEG) と共有結合させて水に溶かすと、抗ガン剤部分を中心に取り込んだミセルが形成される。これで水溶性になる。ただ、この PEG は肝臓への濃縮と毒性が高いため、毒性の低い分子形態の設計に苦労したとのこと。
すごいところは endocytosis によっていっしょにとりこまれた PEG-抗ガン剤ミセルが endosome 内の pH によって解離するように pH 感受性のヒドラドン側鎖を PEG と抗ガン剤の間に埋め込んでおいたこと。ミセルが崩壊さえすればあとは拡散で細胞内へと広がっていく。とても効果的なターゲティングを示したデータを提示されてびっくりした。
さらに DNA を deliver するためのシステムの構築。siRNA は現在進行形でようやく vivo に行けるかなという段階らしい。今度は例によって PEG-poly K(リジン)を利用する。 DNA は負電荷にチャージしているので K の正電荷に吸い寄せられてパッキングされ、これも水に混ぜると自動的にミセル化する。ただ、今回の問題点は endosome 内の low pH によって DNA が加水分解されてしまうので、これを回避するためにプロトンスポンジ効果というものを利用した。
プロトンスポンジ効果にとは、 low pKa を持つエチレンジアミンみたいなものを組み込んだ分子を設計しておくことで、 low pH でプロトンの放出が起きるため、イオン濃度が上昇し、プロトンが塩化物イオンなどを呼び込むこと。これによって endosome 内の浸透圧が急激に上昇して endosome が高張になって破裂する。
これに、DNA のリリースのためのジスルフィド結合をつけておけば、還元条件の細胞内でこの架橋が還元されて解放されるという算段。
何かつくってやろうっていう立場はとても楽しそう。もちろん大変な作業の果ての成果なんだろうけど、試行錯誤する楽しさが、うまくいったときにほんとに大きいと思った。