Chemical biologyとはなあに。

という主題のセミナーに参加。某若手の会が東のほうで開催された。京大の上杉先生東大の片岡先生
上杉先生の話は低分子を用いて生命現象を解析して行こうという流れについての現状のケーススタディみたいな感じだった。FK506 という藤沢製薬(現アステラス)が開発した免疫抑制剤の話から始まる。筑波山中の菌が分泌する抗菌作用をもつ天然物を単離し、免疫抑制作用があることがわかってから、 FK506 を吸着させたアフィニティーカラムによるタンパク質同定によって FKPB とカルシニューリンがとられ、 T-cell activation による作用機序が明らかにされたとのこと。
この藤沢製薬に良く似た表現型をベースとしたスクリーンを行って面白そうな生理活性分子を見つけて生物を解析しようというのがケミカルバイオロジーらしい。
小分子のデザインなどの話も出ていた。VP16 の転写活性化ドメインは polII との結合ドメインが alpha helix 構造を取るということを上杉先生は見つけていて、わりとこの構造は転写因子一般に保存されていることもあるとのこと。とある 30aa の転写因子 ESX*1 ではこの a-helix およそ 2 turn 分には結合部位での水素結合に重要な役割を果たす W が入っていて、この疎水基を F とかに置換してもだめ、というような解析をやっていた(重要なのを探すためのかなり大変な作業が裏にはあるだろうが)。そこで、 W のインドール環が大事だろう、という予測を立て、インドール環をベースとした化合物ライブラリーから ESX の活性をミミックするような化合物をスクリーンしてとあるものを取った。Dominant negative として使えるし、DNA 結合配列のデザインも可能なので、自在に転写を制御できる。小分子だから可溶化のための官能基付与や別の機能を追加することも可能*2
あとは技術開発として avidin-biotin のシステムの改良を行っていた。 Avidin - biotin の結合は非常に強固で結晶解析に基づく結合部位の解析から、結合部位は avidin 分子内にあり、 biotin は結合部位から 7 オングストローム出ないと avidin の外に出られないらしい。そのため biotin 分子のかなりの部分は avidin と非常に近いかあるいは avidin の中に入ってしまう。もしも biotin に結合させたタンパク質を avidin で精製しようとしても、biotin に融合させたタンパク質による立体障害で avidin-biotin の結合が阻害されて精製できないということが考えられるので、biotin を長くして改良していいものをつくりました、とか。
分子を自在に設計できて、機能付与ができる、というのはかなりすごいことなんだという実感が最近ようやく湧いてきた。面白いこの分野。

*1:Her2 の上流にあたる転写因子で、乳がん患者の30% でHer2の発現が亢進しており、このときガンの転移率と死亡率が高くなる。現在 Her2 の発現の有無による乳がん患者に対する検査が実施されており、治療プログラムが別に用意されているという

*2:たとえば biotin をつけてやって結合相手を捜すとか