Ocullar dominance 視覚野のシナプス投射と可塑性

京大の T さんの話。視覚情報は網膜で受容されたのち、 LGN を介して視覚野へ投射される。その途中でシグナルは左右に分離してふたつの視覚野に向かうが、左右の投射先はカラム構造を形成するように別々の空間に投射する(Ocullar dominance, OD という)。そして、この OD は可塑性が存在して、成長段階のある一定の臨界期以前に一方の目を隠して視覚情報が他方の目からのみ入力されるようにしてやると、機能している目からのみの投射が両方の視覚野を占めるようになる(Ocullar dominance placiticity)。
これまでの実験手法として

  • Tracer dye injection
  • Microelectrode

があったが、dye は神経投射パターンの空間分解能は高いが、入力強度を判断することが難しく、一方 microelectrode は入力強度は判断できるが空間分解能がない(どちらの目からの入力かがわかりにくい)という欠点があった。
この問題に対するアプローチとして、神経が活性化した後に活性化する初期応答遺伝子 (Immediately early gene) をマーカーとして用いて、mRNA in situ hybridization によって応答している視覚野を検出する方法を彼のグループは考えだした。Arc (Activity regulated cytoskeleton-associated protein, function unknown).
これを用いて臨界期の検証を行った結果、神経の可塑性はこれまでいわれていたものよりも長いことがわかり、また、これまで考えられていたよりも以前に OD が prepatterning されていることを示した。
方法論としての発想がすばらしい。
メモとして、初期応答遺伝子の応答速度は 30min-1hr らしい。また、神経からの入力が頻繁にあるところとないところでの差異によって回路の remodelling が生じているようだが、それは LGN レベルではなくて視覚野内のようだというのが T さんの考え。どのような遺伝子変化が回路を書き換えているのか、という question を立てたとして、どのようなアプローチが可能だろうか考えてみること。

  • Tagawa, Y et al. Nature Neurosci. 8, 380- (2005)