Gynandromorph - 雌雄モザイク

同一の個体内で雌の細胞と雄の細胞が存在することがある。例えば右半身は雄で左半身は雌という状態で成体になることもある。昆虫での例など

この現象を利用してモザイク解析を行うという技法があった。モザイク解析とは遺伝子の機能解析を行う為の一手法であり、ある遺伝子を欠損した影響がその細胞自身のみに及ぶのか、それともその周辺の野生型の細胞にも及ぼされるのか、ということを判別することができる。また、個体のすべての細胞でその遺伝子の機能を欠損してしまうと、発生のごく初期で個体が致死となってしまい、解析したい時期での遺伝子機能を調べることができない、という問題を回避できるという便利さもある。強調しておきたいのはモザイク解析の真価は、組織中での個々の細胞における遺伝子機能を解析できると点に集約されるということだ*1

Drosophila melanogaster におけるモザイク解析は Flipase と呼ばれる組み替え酵素と FRT と呼ばれる Flipase の認識配列を酵母から借用して体細胞における染色体の組み替えを誘導し細胞分裂時に誘導することで行われている。ただ、この手法は適当なタイミングに細胞分裂を起こす組織でしか利用することができないという欠点を持っている。

現在解析中の組織がこの問題にまさしく直面してしまう系であるため、 Flipase - FRT によるモザイク誘導の発明以前の、古えの技を利用することになる。それは pal (paternal loss) *2と呼ばれる遺伝子の利用にある。 pal は劣性の遺伝子であり、 homozygote は viable であるが、一定の確率 (5% 前後) で父方の染色体が受精以降数回の染色体分配中で失われる。そのため、モザイクを生じることになる。

ある劣性遺伝子 A *3 のモザイク解析をこの classic な方法で行う場合、かなり面倒な遺伝型の個体を作り出し、交配を行う必要がある。

MALE GENOTYPE:: X with genomic region of gene A; pal / pal; A[mutant allele] / A[mutant allele]
cross with
FEMALE GENOTYPE:: y; A[mutant allele] / A[mutant allele]

次世代では三番染色体は A の変異遺伝子の homozygote となっており、次世代が雌ならば X 染色体に導入された A 遺伝子を含むゲノム断片により表現型は野生型となる。しかし、ここで X 染色体上のゲノム断片 *4 が、 pal の変異によりこの断片ごと X 染色体を一部の細胞が失えばモザイクが生じる。

マーカーの工夫により pal / MARCM ももちろんできるだろう。ただ、この解析系を動かすとなるとだいぶ時間がかかるな。

*1:もちろん異論はあるだろうが

*2:pal entry in FLYBASE

*3:ここでは三番染色体とする

*4:transgene でも translocation でもどっちでもいい